生きてる理由 役者 しげみち/六十五歳 充実した日々を俺にくれないか?結婚してくれ。一生、俺についてきてくれ。 暗転 愛する妻に先立たれたわしには、生きている意味なんてない。 早く会いに行きたい。早く死にたい。 もうこの世で、現在で、わしを幸せにできるものなんてないんだ。 明かりがつく。 よしえ~、よしえ~。どうして先に逝ってしまったんだぁ~。 わしをおいて逝ってしまったんだぁ~。 約束してくれただろ? 楽しい日々をくれるって。一生ついてくるって。 約束を破るのか? よしえ、よしえ~~~~ よしえ。この茶ぁうまいな~。やっぱり、よしえは茶ぁ淹れるのがうまいなぁ。 よしえと結婚できてよかったよ。 おいババァ、こんな遅くまで何処行っとったんじゃ。 なっ、これをわしにか?誕生日・・・? おおありがとう。欲しかったんだよ。 でもこんな遅いと心配だからもっと早く、な? よしえ、酒だ、酒持って来い。おぉ、つまみまで作ってくれたのか。 うん、ウマイぞ。よしえは料理も天才だなぁ~。 あれ? よしえ、油が口についとるぞ。みっともない。 えっ、グ・ロ・・・ス? お洒落? おおキレイだな。 悪かったよぉ~。そんなに怒るなよぉ~。よしえ~ よしえ、ほら、コレやるよ。その、なんだ・・・。いつも家事やってくれてる感謝の気持ちだ。 何だよ。そんな大したものじゃないって。 これからもよろしくな。 よしえ~~~~~。何でだよ~~~~~~。 SE:ガタン 誰だ! そうか・・・、よしえか! 帰って来てくれたんだな! 会いに来てくれたんだな! よしえ~! ねずみ・・・。今の音はお前か?よしえじゃなかったのか・・・。 期待させやがって、赦さねぇ~。殺してやる~。殺してやるぞ~。 ・・・。 ・・・。 はっ、よしえじゃな? よしえなんだな! よしえがねずみになって会いにきてくれたんじゃな。 よしえ~。 おっ、おい。何処に行くんだ? そうかぁ~。追いかけっこじゃな?負けないぞ~。待てぇ~~~~~。 よしえ。川なんか渡ってどうするんだよ? よしえ、まてよ。よしえ! そうか、この川は三途の川なんじゃな。これを渡ればよしえに会えるんじゃな。 よしえっ! 暗転 SE:ばちゃーん SE:ぶくぶく 苦しかった 息が出来なかった 暗かった 力の限り叫んだ。 助けて。助けて。助けて。助けて。助けて――――――――――――――――― でも声は、 泡となって消えていった。 少し安らいできた。 このまま死んでもいいと思った。 やっと死ねるんだって思った。 よしえに会えると思った。 苦しみが消えてきた。 息が出来るようになった。 明るくなった。 明かりがつく。 よしえ。わしはよしえの分まで生きようと思う。 よしえがいないのは、寂しいし、悲しいし、辛い。 よしえに会いたいと思う。 でも、わしが溺れてた時、隣のしゅうぞうさんがわしを助けてくれた。 人からもらった命、大切にしようと思う。 しゅうぞうさんも奥さんが死んで悲しいんだと。 だから、これからは二人で寂しさをまぎらわせながら、自然にお迎えが来るのを待とうと思う。 それが、わしの生きる理由だ。 それだけで、十分だと思う。 そういえば、お茶が飲みたいなぁ~。 これも生きる理由だ。 こんなのでも、十分だと思う。 |
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